数年ぶりに、たまごっちを育てている。ところで、たまごっちといえば、思い出すのは、ぼくが中学校1年生のときのことだ。
最初に気が付いたのは、ある日の、帰りのホームルームのときだった。
隣の席の女の子(のぞみちゃん)は、どうやら、机の下でなにかを操作しているようだった。ぼくは「ん、なんだろ…?」と疑問に思ったけれど、すぐにそれが大ヒットおもちゃの「たまごっち」であると察した。当時、たまごっちは品薄で入手困難になるほど人気だったので、ぼくにもすぐにわかった。稚内市には「バンバン」という名のおもちゃ屋さんがあって、「たまごっちを入荷するらしい」なんて噂が小中学生の間を駆け巡ったりもしていた。
まあ、中学校だから、おもちゃを持ち込んだりしたらダメでね、ぼくは、のぞみちゃんが教室でたまごっちを操作しているのを、見なかったことにした。
それから数日が過ぎて、なにかのタイミングでのぞみちゃんとお話する機会があったので、唐突に「たまごっち、元気に育ってる?」なんて問いかけてみたりした。のぞみちゃんは「えっ!なんで知ってるの…?」と返してきたりして、どうやら、ぜんぜんバレていないと考えているようだった。
のぞみちゃんは、いろいろとおもしろいところがあったので、好きだった。
彼女は、じゃんけんのフォームが独特だった。チョキを出すときだけ、一度大きく手を引いてから出すのだ。だから、基本はずっとパーを出しておいて、チョキがくると感じたときだけグーを出せば、ほとんど必ず勝ててしまうのだった。「おおわだ、じゃんけん強いねー!」だなんて無邪気にいうのぞみちゃんは、今にしてみてもかわいかったと思う。