ぼくの最も古い記憶はいつのものだろうか。あまりはっきりと思い出せることはないが、物心がついた頃、ぼくは確かに愛の中にいて、愛を受けて過ごしていただろう。
そのことにようやく気が付くのは、親元を離れて寮での生活を経験し、やがては学生時代を終えて職に就き、自らの生活を自らで紡ぐようになってからだ。当たり前に与えられるものなんて何もない、誰かが守り続けているものだけがそこにあって、両親から絶えず受け取っていたものの大きさを悟る。
今のぼくは、両親が今日まで与えてくれたようなものを、自分の日々の中で育めているのだろうか。「おかえりなさい」という言葉に感じた温かさを抱き締めて、この芽を失ってしまわないようにと強く願う。
ここから先は、ぼくにとっては未来のお話になるけれど、そうして育てた大事な実を、次は自分たちの将来と分かち合いたい。あの日、産声をあげたぼくに、両親がそうしてくれたように。