10
10代前半のころ、月に1〜2回くらいの頻度だったろうか、週末の夜に家族でゲームセンターに行く習慣があった。そこそこ大きい規模のゲームセンターに、父親が運転してくれる車に乗って、家族5人で行っていた。一度に遊ぶ時間はどれくらいだったんだろう、妹・弟は小学生だったから、そこそこの時間帯には帰宅していたはず、いつも2時間くらい遊んでいたのだろうか。最初に借りたメダルを家族みんなで分け合って、それぞれ好きなように遊ぶ時間だった。
父親は、ソフトウェア制御が入っているタイプのメダル落としを淡々と楽しむ。ただのメダル落としじゃなくてね、なんか、光学センサとかついていて、メダルを指定の位置に落とせるとスゴロクのマスを進んでいって、ゴールまでたどりつくと筐体の中央にあるジェットコースターがド派手に動き出して大量のメダルを自陣に投下してくれる、みたいな。そういうの。んで、親父はコツコツとゆっくり時間をかけてメダルを増やしてくれる。
母親は、よくスロットをまわしていたように思う。基本は、一定のゆったりとしたペースでメダルを減らしていくのだけれど、たまに大当たりを出してね。それで、家族のメダル総数がガンッと増える。
妹と弟は、メダル落としもやるし、スロットもやるし、競馬ゲーム、巨大ビンゴゲーム、あとはなにがあったっけな… とにかく、店内にあるメダルゲームを縦横無尽に行脚しては、楽しそうにメダルを消費していた。
…自分のことは、あんまり覚えていないものですね。
20
たしか20歳のときかな、友だちとゲームセンターに行った。単なるヒマつぶしで、たまたまその日、ゲームセンターに行ったのだったと思う。定期的に通ったりする習慣はなかった。
遊んでいたら、こちらに視線を送ってくる小さい子がいた。最初はあんまり気にしないようにしていたのだけれど、ひたすらずっとこっちを見てくるものだから、あるとき思い立って、ちょっと話しかけてみた。
「どうしたの、いっしょに遊ぼうか?」
それから30分くらいかな、その子とキャッキャと遊んで過ごしたのだけれど、だんだんと不安になってきた。「この子、ひとりできたのかな…?親御さんが心配しているのでは…?」
店員さんに話を聞いてみると、どうやらこの子は、いつもここで、ひとりで遊んでいるらしい。母親は、お店の奥の方にあるスロットゲームを楽しんでいる。この子は、母親が遊んでいる間、店内をうろちょろしては、ぼくみたいに遊び相手してくれる人を見つけて、時間を過ごすのだそうで。
少し気持ちに波を起こしてしまったぼくは、その子を連れて、母親のところに行ってしまったのだなぁ。その子が妙にノリ気じゃなくて、どうしたものかと思いつつ、行ってしまったのだった。「さみしそうにしているので、いっしょに遊ぶのはどうですか」と言って、その子を母親の元に置いてきた。
数分後。不機嫌そうな母親に腕を引っ張られて、大泣きしながら店の出口に消えていったその子を、ぼくは立ち尽くしたまま見送ることになった。
ぼくは、なにをしてしまったのだろう。自分の行動の意味を見失ってしまっていた。少し気を持ち直してからぼくもそのお店を出て、気付けば、ぼくも、その子と同じように大泣きしてしまっていた。どんな感情が涙を誘発したのか、今でもわからない。それでも、種類もわからない大きな大きな感情の波に、ぼくの体は従うしかなかったのだ。
30
30歳のぼくは、ゲームセンターにいた。恋人との待ち合わせまでに少し時間があったので、座れる場所にいようと思って、ゲームセンターにいた。そして、20歳のころや10歳のころを思い出した。
さて、40歳のぼくは、どんな時間をゲームセンターで過ごすのだろうか。