もはや説明不要でしょうか,梅田望夫さんと平野啓一郎さんの対談本です.ウェブ進化論を読んだ人の多くは,この本も手に取りそうですね.
このエントリで書評を書くわけではありません.というのも,この本を読んでボクが感じたことは,この本だけを読んだだけでは感じられなかったことだと思うからです.ここ数ヶ月の間に読んだ他の本や,たくさんの人たちとの会話の中で得たものたちが,この本を読むことでリンクされていく感覚を覚えました.小説や漫画といった物語ではない本を読んで涙を流しそうになったのは今回が初めてです.
最近になってようやく「子供」と「大人」の違いが自分の中で明確化されてきました.子供はとにかく「インプット」していくものです.インプットすればするほど褒められます.子供はそれでいいんです,そうあるべきです.そして大人は,それまでに培ったインプットをもとに,社会に対してアウトプットしていくものです.インプットとアウトプットの比率によって,子供と大人を分けられると思います.ただ注意したいのは,大人になればなるほどインプットが減るというわけではなく,インプットは増やし続けながらアウトプットも増やしていくべきだということです.
では,もうさすがに子供じゃいられない自分は,何をアウトプットして社会に貢献できるでしょう.改めて考えてみると,何もできない自分に気が付きます.己の無力さを知って,ようやく最初の一歩を踏み出せます.専門学校時代の恩師の1人はボクたち学生に言いました.「インターンシップに行って学ぶべきことは『自分に何ができるか』じゃない.『いかに自分が無力か』を知ってこい」と.今は,この言葉が身に沁みるように分かります.
例えば研究テーマを決めるにしても,先人たちの研究がなければ何もできません.無から有を生み出すのは本当に難しいことです.ボクであればまず先輩たちの話を聞き,教えられた本や論文を読み,それからようやく自分と向き合うステップが訪れます.大学卒業時に書いた論文だって,ボクひとりの力では1文字も書けなかったものです.論文検索エンジンGoogle Scholarに書かれている「Stand on the shoulders of giants (巨人の肩に立つ)」は本当に上手な表現です.しみじみ.
同様に,Web上で自分のアイディアを実現するときも,先人たちの偉業のおかげでボクのようなちっぽけな人間にも何かを生み出すことができます.そこら中で公開されているプログラムのソースコード,解説,実際の応用例,数々の書籍などなど,インプットのためになる情報源は嬉しいことに溢れるほどあります.そうして得たインプットをもとに,このcameraLadyやLibelabo通じて頭の中にある「イメージ」を具現化して世に発信できたとき,また,それらに対して反応があったとき,ボクはようやく「何かできた」という心地よい満足感を得ることができました.ほんのちっぽけな成果だけれど,ボクにとっては大事な経験となりました.
ウェブ人間論の中で「価値観の共有」というテーマが扱われていますが,これについてはボクも考えるところがあります.「こんなものがあったら便利だな」「これはもっとこうあるべきだな」という思いをすぐに形にでき,不特定多数の人に届けられるWebの仕組みはボクに勇気を与えてくれます.ボクという人間が「大人」としてやっていける場所がWebなんです.この活動が将来の職に直接結びつくのか,それとも職とは別の活動として続けていくのかはまだ分かりませんが,Webに,Webの向こう側にいる皆さんには感謝しています.これからもWebの発展を望み,願わくばそこに関わっていきたいです.
ところで,Webは世の中の仕組みを変えるでしょうか.自問しています.近い将来か遠い未来かは問わず,世界中の人々の生活を大きく変えられるものでしょうか.現状,Web上でボクが何かを作ったとして,それがとても素晴らしいものだったとして,利用者はどれくらいになるでしょう.世の中にどういった影響を与えるでしょう.Web界隈の人たちにたくさんブックマークされて「これはすごい」と言ってもらえればボクの人生は満たされるのでしょうか.はたまた,お茶の間に普及するレベルになって初めて「成功した」と思えるのでしょうか.
確かに今のWebの仕組みは素晴らしくて,ブログを書いたりソーシャルブックマークを使ったり,検索サービスを活用したりしていると,面白いように「共感できる人」が見つかります.特に「個が強調される」ブログのパワーはすごいです.だけど,たくさんの共感できる人に出会い,コミュニティに参加していると,なかなか外側が見えなくなってしまいます.グーグル・アマゾン化する社会の中で懸念事項として挙げられていた「セレンディピティ(偶然の出会い)の喪失」です.ウェブ人間論の中で言えば「島宇宙での社会貢献」という話が近いですかね.梅田望夫さんはこの件に関しては肯定的ですが,ボクは「自分はこの世界のことしか見えてないんじゃないか」と不安になるときがあります.もちろん世界のすべてを知った上で行動するのは不可能ですからある程度は仕方ないでしょうが,たまにはふらっと外の世界を見て歩く「ランダムネス」は持ち合わせていたいと思います.
以前,本気で世の中を変えようとしているある偉大な方から「君は,君の住む世界で認められれば満足なのか」と聞かれたことがあります.ボクは言葉に詰まってしまいました.その方は「成功したときに涙を流せる仕事を選べ」とだけ言ってくれて,将来について深く考える機会を与えてくれました.
「成功したい」気持ちは誰にでも少なからずあると思います.すでに職に就いている方たち,あなたにとっての成功はなんですか.これから職に就いていこうという方たち,成功を目指した職選びをしていますか.成功したときに涙を流して喜べる自分が想像できますか.悩み続ける日々はまだまだ続きそうです.
最後に,ボクが「ウェブ人間論と合わせて読んでおいてよかったな」と感じた本を並べておきます.誰かの次の1冊にでもなれば幸いです.だけどアレですね… このリストを見るだけでも,ボクがいかに狭い世界に生きているかが分かってしまいますね…!
- ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
- アンビエント・ファインダビリティ―
- グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する
- グーグル・アマゾン化する社会
- Google 最強のブランド戦略 邪悪にならないこと
- ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代
- 「みんなの意見」は案外正しい
- 新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く
- 複雑な世界、単純な法則
うーむ,長文になればなるほど文が乱れる… もっと訓練が必要です.読んでくれた方,ありがとうございます.