本屋さんで見つけて手に取り,タイトルを見て即買いしました.
- Web2.0的成功学―複雑系の科学と最新経済学で時代を読む
- 近 勝彦 MYCOM新書編集部
- 毎日コミュニケーションズ 2006-12
- 売り上げランキング : 17149
by G-Tools , 2006/12/20
内容(「MARC」データベースより)
「複雑系の科学」「最新ネットワーク理論」「情報と不確実性の経済学」という3つの理論によってWeb2.0的な世界の本質に迫り、その複雑な世界で見落とされている「成功のための単純な見方」を導き出します。
「Web2.0」はボクが今,最も興味を持っている話題のひとつであり,「複雑系」はもろにボクの研究分野です.いまやWeb2.0をタイトルに含めた本は山ほどありますが,複雑系の観点を持ってWeb2.0を考察している本は他に知りません.複雑系を専攻している仲間たちにもお勧めしたい本です.ボクはWeb2.0を,複雑系の研究をするための有益で豊富なデータが揃った宝の山だと捉えています.様々な種類の「リンク」によって要素同士が繋がり合っていくWeb2.0の世界は,特にネットワーク理論を武器に世界を理解しようとする人たちに貴重な経験を与えてくれます.
第1章「Web2.0と複雑系ネットワーク」では言葉の定義についてざっと触れています.Web2.0の説明ではTim O’Reillyの「What Is Web 2.0」に触れ,複雑系の説明では還元主義の考え方から話を始めており,全体的に流れが親切なのでどちらか一方を知っている人であれば難なく読める構成になっています.mixiGraphを使ってスモールワールドを体感させようとする試みは,ウチの研究室でもオープンキャンパスや研究室見学の際に取り入れてきたので共感を持てました.この章の最後で「Web2.0の要素にいくつ当てはまるかで企業を分類してもあまり意味がない」と書かれていて,ここで早速「還元主義的な考え方では本質を見落とすことがある」という例を示しているのは巧妙です!上手だなぁ.
第2章「情報と不確実性の経済学」では,Web2.0,複雑系に続くこの本の重要な要素である「経済学」について説明しています.ボクは経済学の知識をまったく持たないので,メモを取った量はこの章が最も多く,ふむふむと頷きながらじっくり読みました.経済学の視点から見たWeb2.0は「補助的チャンネルの不確実性を小さくすることがビジネスの大きなテーマ」であると書かれています.制度的チャンネル(マスコミなど)の情報に飽き足らない人々は,補助的チャンネル(ここではずばりCGM)に走ります.Amazonのカスタマーレビューはまさに信頼できる仕組みを持った補助的チャンネルの例として挙げられています.しかし著者は,どちらか一方を取り入れるのではなく,複数の情報源を持ちそれらを突き合わせて総合的な判断を下すのが重要であると強調しています.その通りでしょうね.Web2.0の世界では情報を集める能力よりも,集めた情報を編纂する能力が求められていると言えるでしょう.
第3章「複雑系の経済学」,第4章「ネットワーク組織論」では,最近話題になった実際の社会の動向を紹介し,これまでに述べてきた理論を持って説明しようとしています.固有名詞もたくさん登場するので話の内容をイメージしやすくなっています.最後に第5章「Web2.0的起業学」,第6章「Web2.0的流行学」の2章構成で,実例から得た知見をどう未来に活かしていくべきか書かれています.この中で「リスクに対する意識のゆがみ」の話があるのですが,ボクは昔から「みんな,ガソリン代の値上がりには反応しすぎ!」と思ってきたので,人間の心は難しいなぁと思いながら読みました.日々溢れるほどの情報にさらされていると,勝手な思い込みや局所的な情報によって間違った認識を持ってしまいがちです.情報の真偽を嗅ぎ分ける嗅覚を養っていくべきですね.
この本を読んで,これまで漠然とWeb2.0と複雑系を結び付けてきたボクの頭の中は少しスッキリしました.感覚が言葉になるとスッキリしますね.自分以外の誰かにも伝えられるようになります.また,経済学や心理学の立ち位置からはWeb2.0がどんな風に見えているのか,初めてそんなことを考えられたので得るものがありました.ひとつの対象を様々な角度から見てみることはとても大事です.自分ひとりでそれができないのなら,専門分野の異なる人と何かテーマを用意してじっくり話してみるのもよさそうです.