2018年1月4日から読み始めて、1週間程度で読み終わりました。これはぼくにしては早いペースです。特に、第1章におもしろエピソードを盛ってあるのはずるくて、早々にハートキャッチされてしまうので勢いよく読めました。
読書記録を書こう書こうと思って書けずにいる間に、1月15日にはワールドビジネスサテライトでもエストニアが取り上げられたのですね。ソーシャルメディア上でエストニアがちょこちょこ言及されているのを見て、よし、エストニア本のことを書いちゃおうと思っていま書いています。
エストニア 「電子国家」で変わる生活:ワールドビジネスサテライト:テレビ東京
ハイライト
Kindle 端末で読みながら、なんと61ヶ所もハイライトしてしまいました。ぜんぶを引用していると大変なので、ここからさらに厳選してぼくに刺さった内容を紹介するとしましょう。
エストニア人と書面での契約をしようとすることは得策ではありません。なぜ契約相手がそのような非効率的で、安全性が低く、環境負荷を与える方法で契約するのか、エストニア人は理解できないからです。時にはあなたを疑いの目で見ることもあるでしょう。エストニアの人々は、電子署名と電子契約が、署名を安価にし、ビジネスのスピードを上げ、森の木を残すことを知っています。
ワールドビジネスサテライトの実況ツイートとして、下記のツイートがたくさん RT されていました。似たような話ですね。
その通りだと思うね。
— マウントエレベスト (@sgmt8848) January 15, 2018
印章は簡単にコピーできるから、偽印鑑が簡単に作れるし。
それなのに日本は未だに印鑑という非合理的でセキュアじゃないシステムにこだわるんだから呆れる。#wbs pic.twitter.com/bf8ZA41SSE
国民ID番号については、日本では「マイナンバー制度を導入すると政府による国民の監視が強まる」と心配する人も多いが、エストニアではそのような心配をする人はほとんどいない。背景には、国民ID番号を利用することに長い歴史があることに加え、行政の情報公開が進んでいて、国民が知らない間に国民を監視する仕組みを作ることは困難と思われていることがある。
「情報システム」と「国民からの信頼」がセットで存在しているのだなあ。
情報公開が進んでいることで、政治家も不正行為ができない。エストニアではすべての企業献金が禁止されており、政治家は個人献金だけを受け取ることができる。当然、政治家の収入や党に対する個人の献金額も公開されているので、たとえば、選挙で多額の費用を使ったことが知られると、その金の出所をマスコミに追及されることになる。海外視察の時も、経費を何にいくら使ったか、本当に必要な支出なのかを説明しなければならない。
これだいぶ大事だと思う。たとえひとりひとりの「政治家さん」を信用できなかったとしても、不正をはたらくことのできない「政治システム」を信用できさえすれば、こんなに政治に不信感を抱いて過ごさずに済むと思うのでした。「実は、誰々さんがこんなことにお金を使っていました」「なにそれひどい」みたいなやりとり、これ以上は聞きたくありませんからね〜。
政府は作成した文書を基本的にWeb上で公開することが法律で決められている。まず、国民はネット上で政府がどのような文書を作成しているか知ることができ、ネット上でその文書の閲覧請求もできる。国民に公開されない機密文書もあるが、この場合は機密文書とした理由を政府が開示しなければならない。
いいじゃん。
選挙活動といっても、日本のように候補者名を連呼したり、街頭での演説を行ったりすることはない。
「大声で名前を連呼した方が勝つ」みたいな世界観にまったく共感できないので、こういうのはいいと思います。
セップさんも毎年3月にインターネットで税の申告を行っている。税額は行政が収入を把握しているのであらかじめ計算されており、税の申告サイト上に表示される申告書類に目を通して、記入漏れや間違いがなければ電子署名で確認をすれば完了する。書面で申告するよりも、インターネットで税の申告をしたほうが税の還付が早く、3日くらいで払いすぎた税金が戻ってくる。
いいじゃん…!
電子処方箋のおかげで、患者は慢性疾患の処方箋を得るためだけに医師を受診する必要がなくなった。患者は医師に連絡し、医師が必要な情報を入力するだけで薬局で薬を受け取ることができる。
あるいは、
エストニアではすでに医療情報の共有はできていて、電子医療記録、電子画像の保管とアクセス、オンライン予約、電子処方箋の各システムは実際に利用されている。そのため、たとえば市民の病歴などがすべて電子的に管理されているため、旅先で急に病気にかかって病院に行ったときでも、現地の医師はその患者の病歴を見て診断することができる。
は、ぼく自身はここ15年くらい病気や怪我でお医者さんのお世話になっていないのであまり実感はないものの、身近な人から病院で数時間も待たされて〜的なお話を聞かせてもらうと気分が重くなるので、そういう人たちにとってはめっちゃうらやましいことなのだろうと想像します。
エストニアの電子政府サービスの開発の特徴は、一度作ったあとは作りっぱなしではなく、利用者の声を反映させ、改良を重ねていくところにある。
おっ、どこかで聞いたような開発プロセスの話だ!
文書交換センター(DEC:Document Exchange Centre)は、国家ポータルの文書(eForms、DigiDoc)を処理するための文書管理システムおよびアプリケーションの共通の中央コンポーネント(情報システム)である。このシステムの目的は、分散された場所にある文書管理システムをX-Roadを通してリンクし、文書の短期的および長期的保管と処理を確実に行うことである。DECの機能性は文書形式には依存せず、文書の種類を制限することもない。DECは以下のオンライン・サービスを提供する。
大事な文書の保存は大事ですよねぇ。いい歳した大人が「言った」「言っていない」で言い争う時間はゴミのようなものだと思っているので、記録は大事。「1年経ったら削除する」とか言っている場合ではない。
エストニアでは、正当な理由がある場合に法律を素早く変更することができる。
いいじゃん…!なんなら「正当な理由があるのに素早く変更できない」ってなんなのだろう、という気持ちまであります。
それを実現するための重要な要素の一つは、データベース内のデータの共同使用や再利用である。電子政府の開発の初期の頃から、エストニアは「市民(利用者)からの情報を聞くのは一度だけ」という原則を持っていた。すなわち、政府サービスを利用する際、利用者が同じ情報を同じ形で何度も入力する必要がないようにしている。政府がすでにデータベース内に情報を持っているなら、同じ人が他の行政サービスを使用する場合、その情報の使用を拒否することがあってはならない。
どこぞのユーエックスデザイナーじゃなくて「国」がこれを言っているの、控えめに言って最高。こういうシステムに触れて育った人は、自身がシステムを設計するときにも自然とそういう発想をするのだろう。「同じことを2回も入力させるの、異常じゃない?」と。
もちろん、エストニアのスタートアップ企業にとって、人口わずか130万人のエストニアという国はターゲットとする市場としては小さすぎる。しかし、その小回りが利く国のサイズと、教育レベルが高く技術に精通した人々が住んでいることは、エストニアを新しい技術のためのテスト市場として機能させることに成功している。
国そのものが経済特区っぽいよなあ。
エストニアは、会社を設立する速度でいえばギネスレコードに載るレベルの速さを実現しているといえるでしょう。eIDカードかeレジデンシーカードの所持者が標準的な企業を設立するためにかかる時間は、最速で9分25秒だと聞いています。
最速10分で起業!
本章では、エストニアの事例を見ながら、日本として参考にすべき点を以下の項目について述べる。 1.明確なICT推進の基本方針の策定 2.国民の理解の獲得 3.共通基盤の構築 4.明確な技術支援体制 5.普及戦略
これは「日本」を「あなたが属する組織」に読み替えても有益になりそう、と思いながら読みました。
まず、実際に市民が利用してメリットのあるサービスを検討し、その優先順位を上げる必要がある。 一例として、かつて外務省所管の「パスポート電子申請システム」を紹介する。これは導入3年で133件しか使われず、2005年に廃止された。
えっ、日本でそんなことがあったのですね、知りませんでした。ぼくがソフトウェアについていっぱい考えるようになる前の出来事ですね。
2つ目は、その開発費用の妥当性だ。20億円以上のシステム構築費用を旅券発行数で割ると、1件当たり約1600万円になることが大きく問題となったが、なぜこのような膨大な費用がかかってしまったのかの説明は十分行われることがなかった。
ほえー、ぜんぜん知りませんでした。気になって調べてみたら2006年の記事でこんなものが見つかりました。なるほど。
電子行政:オピニオン/インタビュー - 今、あえて提言する「パスポート電子申請は“廃止”すべきではなかった」:ITpro
雑感
全体を通しての感想は「おお、ふつうだ」となりました。
ここでいう「ふつう」というのは、多くの国がそうしているとか、平均的であるとか、そういうことではなくて。「自然な状態だ」というニュアンスです。やりたいことがあったときに、それを苦労なくストレスなくふつうにできちゃう、という意味での「ふつう」です。
コアになっているのは「国民ID」でしょうね。しっかりと設計されて、実装されて、運用されている。だから強力である。まっとうに設計・実装・運用したらこうなるよな、という姿が第1章でたっぷりと描かれていました。ちょっとだけ気になる〜という人は第1章だけつまみ食いするとよいと思います。
そういう意味では、日本では「マイナンバー」が機能するようになれば、状況が大きく前進するのではないかと思います。もちろん国には「こんなふうに、最高の日々が訪れるんだ!」というビジョンをしっかりと示してくれることを期待しますが、一方で私たち国民も協力的な態度で建設的なふるまいで向き合っていかないと、国として着実に歩を進めるのは難しかろうとも思います。クソほど文句を言って足を止めさせるのは簡単ですけどね〜。
まとめ
書籍「未来型国家エストニアの挑戦」を楽しく読んだので、その読書メモを書きました。
この書籍は約2年前の発売なのですが、ぼくはこれを2018年に読めてよかったなぁと思いました。興味を持ったきっかけは「ブロックチェーン」や「スマートコントラクト」といった技術です。こういった技術について、この星の中で先行して大きな事例を生みそうな活動主体として、エストニアに注目するようになりました。もしこの書籍を2016年に読んでいたら、きっとぼくは無邪気に「これからの時代、国っていうのはこういう姿になっていくのだろう、楽しみだ〜!」と未来の国家像を想像して胸を踊らせていたのではないかと思います。しかし、2018年のぼくの感覚はまた違ったものでした。
今年はきっと「Decentralization」について何度も考えさせられることになるだろうと予感しています。これまでの約35年間を生きてきたぼくに染み付いている「国」や「企業」といったものたちの在り方が、大きく変わっていくのだろうという漠然とした予感です。この書籍を通じて視たエストニアというひとつの国の形は、今のぼくにとっては「やがてたどりつきたい目的地」としてではなく、これからぼくらが向かう方角を指し示す「羅針盤」として映りました。
まだエストニアについてよく知らないという人や、今後10年の国家や社会の様相を考えていきたいという人には、ぜひおすすめしたい1冊です。
未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界 (NextPublishing)
- 作者: ラウルアリキヴィ,前田陽二
- 出版社/メーカー: インプレスR&D
- 発売日: 2016/01/29
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る