はじめに
このエントリは Pepabo Managers Advent Calendar 2018 の参加エントリです。ぼくは 22 日を担当します。きのうは @igashima さんの ストレスとの向き合い方 | 人間万事塞翁が馬 でした。
ぼくはマネージャという立場ではないのですが、ペパボの本社事業部のチーフテクニカルリードになりました に書いた通り 2017 年 1 月からチーフテクニカルリードという職位でお仕事しています。チーフテクニカルリード歴が、もうすぐ丸 2 年になると気付いて驚きました。チーフテクニカルリードはカタカナ 11 文字で長いので、以降は CTL と略語で書きます。
(弊社における CTL についての詳細は 技術組織をスケールするためのCTL = チーフテクニカルリード - Kentaro Kuribayashi's blog が詳しいです)
CTL は、2018 年の我々の業界の語彙でいう「エンジニアリングマネージャ」と呼ばれるロールの成分を多く含みます。そういう意味では、ある面ではマネージャであり、管理職でもあるわけです。そんなこんなで Pepabo Managers Advent Calendar 2018 にも参加しています。
マネジメント、あるいは管理
一般的に、マネージャっぽい役割であればマネジメントのスキルを習得しておくと役に立ちそうです。また、管理職ということであれば、物事を上手に管理できるようになっておくとよさそうに思えました。
実際、CTL になった頃は「あらためてマネジメントについて勉強しよう」と思い、Amazon.co.jp を「マネジメント」で検索したときに出てくるよさげな書籍を適当に選んで読んでみたりもしました。2017 年初頭から 2018 年の春あたりまで、june29 のブックマーク には management タグのついたブックマークがたくさんあります。
しかし、そうやってまるまる 1 年間くらい過ごしてみて、どうにも「マネジメント」「管理」という語彙に対してテンションが上がり切らない自分がいると自覚するようになりました。これは言葉に対する好き嫌いの話でしかないのですが、とにかくぼくはそういう状態だったのです。テンションの上がらない語彙を中心においてがんばるよりは、もっと自分の好きな言葉をふんだんに活用して思考を整理していった方がよいだろうと思い、代わりに「チーム」「組織」「文化」といった語彙を通じて CTL の役割やお仕事を自分なりに考えていくことにしました。
いっしょに楽しく活躍したい
前述したような思考の過程を辿ったぼくは、「マネジメントを上手にやりたい」というよりは「関わるみんなといっしょに楽しく活躍したい」と考えるようになりました。これなら気分が乗ってきます。自分の心の声に近いメッセージを選べているからでしょう。
この観点を出発点として、あれこれを勉強してみたり、試してみたり、取り入れてみたり、捨ててみたり、先輩に相談してみたり仲間と議論してみたり、うまくいくこともあればぜんぜんうまくいかないこともあったりしながら、だんだんとわかってきたことがありました。
それは「自分の価値観をより深く理解することが大事」ということです。もし、自分の価値観がよくわかっておらず、自分や同僚や友人たちの中にどのような価値観が存在するのか・存在し得るのかに意識を向けられなければ、それを受け入れて尊重することも難しいはずです。自分が、関わるみなさんの価値観を尊重できていないとしたら、それはとても怖いことのように感じます。いっしょに楽しく活躍するだなんて、叶いそうにもありません。
だからまず、自分自身の価値観と向き合うことから始めて、整理できてきたものから順に明記していくことにしました。明記したものをもとに「ぼくはこういう考えだけど、あなたはどう?」と対話をはじめて、相手の価値観を引き出して聞き出せたら万々歳です。そこまで進めたら、お互いを尊重しながらいっしょに楽しく活躍していくためのスタートラインに立てたと言えそうです。
自分の価値観の輪郭
さて、それではここから、ぼくがこれまでに自覚してこれた価値観を順に書き出していきます!
認知のパラダイムは「オレンジ」と「ティール」の間くらい
詳しくは 書籍「ティール組織」を読んで、自分の価値観を見つめ直してみた に書きました。図もそこに載せたやつの再掲です。
がんばって自分をなるべく客観的に見るつもりで考えてみて、ぼくの思考のパラダイムは「アンバー : オレンジ : ティール」の比でいうと「1 : 7 : 2」くらいかな、と感じます。ベンチャーやスタートアップでのお仕事を経て、成人して以降の多くの期間をオレンジの傾向が強い組織で過ごしてきたので、思考のパターンもオレンジに強い影響を受けているように思います。
ぼく自身はアンバー的な価値観をほとんど有していないのですが、アンバーのパラダイムが重視しているものがなんなのかわかったのは収穫でした。
アンバーのパラダイムに従って暮らしている人は「規則や規律こそが組織を守る、だから私たちは規則や規律を守ることがとっても大事なのだ」という価値観を持っているので、その価値観においては「みんなで幸せになるために規則を守る」のは理にかなっているのです。そこは否定されるべきものではないのだな、と納得しました。
損得で物事を考えがち
判断に迷ったら、だいたい「お得だと思う方」を選びます。なるべく損をしたくないからです。
お得を構成する要素はいろいろあって、経済的なお得のように定量的にわかりやすいものもあれば、心理的には「うれしい」「たのしい」もお得だと思いますし、社会的な観点での「この人にはお世話になっているから、この機会に恩返しできるとよい」のようなお得もあります。
こうして書き出してみるとそりゃそうだなという内容ですが、実際の語彙としても、日常的に「お得」という言葉を言ったり書いたりしています。
未来に対する希望的観測
これはサピエンス全史を読んだことで認知できたことです。下記は「サピエンス全史 下巻」からの引用です。
近代以前の問題は、誰も信用を考えつかなかったとか、その使い方がわからなかったとかいうことではない。あまり信用供与を行なおうとしなかった点にある。なぜなら彼らには、将来が現在よりも良くなるとはとうてい信じられなかったからだ。概して昔の人々は自分たちの時代よりも過去のほうが良かったと思い、将来は今よりも悪くなるか、せいぜい今と同程度だろうと考えていた。
こう書いてあって、意外に思いました。ぼくは常々「これからもどんどん新しいテクノロジやプロダクトが登場して、現在のぼくを悩ませていることの大半は未来には問題ごと消えてなくなっているのだろう」と想像しています。科学の力を信じることで得られる楽観ですね。人類というスコープで見ても、ぼく個人というスコープで見ても、10 年後や 20 年後には今よりもっと生産しているし、消費もしていることでしょう。
ぼくらが取り合うパイは拡大を続けているんだ、という捉え方をしています。
ゼロサムゲームに参加しない
先の「損得」と「未来に対する希望的観測」の両方に強く結びついた考えとして、なるべくゼロサムじゃないゲームを選んで参加している、というのがあります。そのおかげで「自分にとってお得な方を選ぶ」を躊躇せずに実践できています。
もし、社のお仕事における成果がゼロサムゲームだったら、ぼくがたくさんパイを取ったらその分だけ他の人が取れるパイが減ってしまうので、ぼくには遠慮の気持ちが少なからず生じることでしょう。もう 10 年以上も昔の話ですが、売り場に立つお仕事をしていたときはまさにパイの奪い合いという感じがあり、ぼくは苦手でした。今後もゼロサムっぽいゲームには極力関わらないで生きていくと思います。
ぼくが全力で得をするとぼくのまわりにいる人たちも得をする、そんなゲームだったら最高じゃん、と。そんな世界観をもって生きています。
世界の富はどんどん増える、みんなでバンバン稼いでジャブジャブ使っていきましょ〜という資本主義と消費主義の時代に生まれたぼくだからこんな価値観になったのでしょう。
全体主義よりは個人主義
ここでは「個人主義」という概念の詳細に立ち入ることは避けて、全体主義よりは個人主義に寄った考え方を持って暮らしているぞ、ということだけを表明しておきます。
Wikipedia の「個人主義」のページ には大事なことが書いてありました。
個人主義と「利己主義」は同一ではない。個人主義は個人の自立独行、私生活の保全、相互尊重、自分の意見を表明する、周囲の圧力をかわす、チームワーク、男女の平等、自由意志、自由貿易に大きな価値を置いている。個人主義者はまた、各人または各家庭は所有物を獲得したり、それを彼らの思うままに管理し処分する便宜を最大限に享受する所有システムを含意している。
ぼくは個人主義的ではあるけれど、利己主義的ではないつもりです。自分のお得のために行動するけれど、他の人に損をさせたいとは思っていないからです。あなたもぼくも得をする方法を選びましょう、というスタンス。利己主義は、ぼくの損得のモノサシでいうと「損」の色が強いです。そっちを選びたくない気持ちがあります。
人類という種は、種としての存続を目指す特性を有しているけれど、各個体の幸福についてはまったくの無頓着です。人類はぼくを守ってはくれません。全体や集団も、それら自身の発展を望みはするけれど、ときとしてそこに属する個体を犠牲にします。集団はぼくを守ってはくれません。なのでせめて、自分のことは自分で守っていく気概があった方がいいだろうな、と思い、ぼくはぼく自身を存続させるために個人としての権利や主張を使えるだけ使ってやろうと思っています。
成果主義
なんにせよ、質と量の両面で「成果を出している人はすごいな〜」と思って見ています。
自由主義
各位、自分の望む結果を得るべく各位の自由を最大限に活用してやっていきましょう、という考えがベースにあります。自分ひとりで戦う自由も、まわりの協力を得ながらやっていく自由もあります。もちろん、自分からは行動を起こさずに、流れるように結果をただただ受け入れるという自由もあることでしょう。
誰かがぼくの人生の面倒を見てくれるとは思えないので、いつだって後悔しないように、自由の範囲を広げつつ自由を行使して結果を勝ち取っていくぞ、という気持ちです。
楽観主義
そう簡単に死にはしないよな、と思っています。なるようになるさ。
ここで エミール=オーギュスト・シャルティエ の著書「幸福論」からの引用です。
悲観主義は気分に属し、楽観主義は意思に属する。
ぼくは、自分には自由意思があると信じておきたい人なので、気分に負けない意思としての「楽観主義」をスキルとして身につけておきたい気持ちがあります。身近な人が悲観に飲まれそうなときこそ、ぼくはそれを笑い飛ばしていたいんです。なんでって、その方が成果を出せると思うし、なにより幸せな生き方だと思うからです。悲観に暮れて生きるなんてごめんだ。
経験主義
2018 年の日本でプロダクト開発に関わっていると、とにかく不確実性の高さを感じて止みません。ありとあらゆる物事の変化のスピードが早すぎます。
だいたいにして複雑系を相手にすることになるので、事前にすべての情報を揃えて完璧な予想や計画を打ち立てることは不可能と感じています。その時点で考えられることを考え尽くしたら「ちょっとやってみましょうか」で経験を得るための行動を始めます。このとき、なるべく小さいコストでなるべく多くの気付きを得られるようにやり方を工夫します。
ぼくと同じようにプロダクト開発に関わっている人、特にプロダクトマネジメントを学んでいる人にとっては釈迦に説法な内容だよな、と思いながらこの節を書いています。というのも、ぼくにとっては「そうするしかないよな」と思うくらいに確信に近い考え方ではあるものの、世の中を眺めていると、不確実なことに最初から大きなコストを投じて盛大に空振りする例をちょいちょい見かけるので、現段階ではまだまだ何度でも言った方がよい内容なのかな、と思って書きました。
「ザ・不確実性本」という感じで、不確実性については「エンジニアリング組織論への招待」が詳しいです。
おわりに
他にも書けるようなことはありそうですが、あまり長く書きすぎてもしょうがないので、今回はこのあたりにしておきます。今年はさまざまなインプットと試行錯誤を経て、これまでクリアに捉えられていなかった自分自身の輪郭をたくさん発見した 1 年でした。これをもとに、接点のある人たちとの相互理解を深めていけるといいな… ここからがんばっていきます。
ここに書いたのは、2018 年 12 月時点での自分の価値観のスナップショットです。今から 1 年も経つころには、まるきり別のことは言わないまでも、今日と同じ価値観のまま過ごしているということもないでしょう。これからも随時、価値観は更新されていくと確信しています。
今年、こうして自分の考えをまとめていくにあたって、5 月くらいから少しずつ書き溜めていった june29 の Scrapbox がとても役に立ちました。特にそうですね、#言葉 というタグをつけたページたち には、今回書いたような内容の断片がいくつも記録されています。これからも事あるごとに記録していくことになりそうです。
このエントリは Pepabo Managers Advent Calendar 2018 の参加エントリです。22 日を担当しました。明日は @tnmt さんの CTL一年目のまとめ - hack in 3 minutes です。