#june29jp

書籍「ティール組織」を読んで、自分の価値観を見つめ直してみた

2018-04-05

ティール組織」を 2018 年 2 月 9 日に購入して、まるまる 1 ヶ月間くらいをかけて読みました。かなりボリューミィで相当なエネルギーが必要でしたが、ぞくぞくする内容も多くて最後まで楽しく読めちゃいました。

最近のぼくは物理的所有物を増やしたくないので書籍は基本的にすべて Kindle で読んでいて、文中の気に入ったフレーズや覚えておきたい内容は「ハイライト」をつけながら読み進めていきます。それで、読み終わったあとには https://read.amazon.co.jp/kp/notebook にアクセスしてハイライトを一通り眺めてあらためて書籍の全容を俯瞰し、ここ june29.jp に読書感想文を書いて投稿したりするわけです。このティール組織も同じようにしていたのですが、なんとハイライトが 331 箇所にも及んでしまい、ハイライトだけでちょっとした書籍 1 冊分くらいの量になってしまいました。そんなわけで、咀嚼するのにも時間がかかり、読了後 1 ヶ月ほどを経ての感想文の投稿になります。

ただの内容紹介であれば他のウェブページに任せるのでよいだろうと思い、自分の価値観や考えと絡めた形での感想文を書くことにしました。

ティール組織って、なに?

まず、後半部を読むための前提知識になるような概要はいくらか書いておきます。

  • これまで多くの学者 (心理学者、哲学者、人類学者などなど) たちが、人の意識の発達段階を分析してきた
  • 人類はおよそ 10 万年の歴史の中でいくつかの連続的な段階を経験し、各段階で、まわりの世界に対処する能力は知的にも倫理的にも心理的にも飛躍的に伸びた
  • 個人の意識の発達段階にあわせて、組織モデルもまた発達してきた
  • 発達心理学は人類の意識の次の段階について言及していて、そうすると「次の組織モデル」が見えてくる
  • 著者は「次の組織モデルなんて本当にあるの?」と興味を持ち、12 の組織について調べまくった

お察しの通り、調査の対象となった 12 の組織がこの書籍でいうティール組織であり、組織のタイプや規模は違えど共通する特徴があったのです。紹介される組織には営利企業も非営利組織もあり、小売り、メーカー、エネルギー、食品、教育、医療と分野もさまざま。にも関わらず共通する特徴が見つかったというのがおもしろポイントです。

ちなみに「ティール」は色の名前です。色は百聞より一見でしょうから、対応する「人の意識の発達段階」とともに説明された色付きの図を載せておきます。説明文はすべて書籍からの引用です。

ティールは「青緑」っぽい色なんですね。日本人にとってはピンときづらいと思います。

書籍の内容はどんな感じ?

先の図には無色を入れて 7 色が登場するのですが、書籍の中でたくさん語られるのは「順応型 (アンバー)」「達成型 (オレンジ)」「進化型 (ティール)」の 3 つです。アンバーより前のパラダイムになると現代ではあまり見かけない組織タイプなので言及しづらいのと、ティールを語る上では比較対象としてアンバーとオレンジがわかりやすいのでしょう。

なので、全容をざっくりと理解するにはアンバー・オレンジ・ティールの特徴を押さえるのがてっとり早いと思います。この感想文においてもこの 3 つについて触れていきます。

順応型 (アンバー) について

発達心理学者によると、現代の先進国における成人の大半がアンバーのパラダイムに従って行動しているそうです。

この段階では、現実はニュートン的な観点で認識されている。因果関係という概念は理解されており、人々は過去から現在、未来へと続く線形的な時間の流れを把握し、将来に向けた計画を立てることができる。こうした土台があると農業が発展可能となる。植物を育てるには、今年の収穫物から種子を取って来年に備えるという、自己規律と将来を展望する力が必要だからだ。

アンバーのひとつ前の「衝動型 (レッド)」を省略しちゃっているからアレなんですけど、レッドだと「これが欲しい、だから殴って奪う」という感じで、長い目で見てどうとか将来の計画とか、そういうのがないのですね。だからアンバーに到達して計画を立てられるようになって農業ができるようになった、というのが大きなポイントです。

「わたしたち」という意識を持てるのもアンバーからです。レッドで「自己中心的」だった意識はアンバーで「自民族中心的」になります。本格的な集団というものが出現し、その集団の秩序を守るには「規則や規律が大事」とされます。これが官僚制度や階層社会を生みました。歴史的に見ると、アンバー組織が「ピラミッド」や「万里の長城」の建造という成果を残しています。

現代においてアンバーで運営される組織は、大半の政府機関、公立学校、宗教団体、軍隊などです。

達成型 (オレンジ) について

アンバーが世界を「静的なもの」と捉えがちなのに対し、オレンジは「動的なもの」と捉えます。

達成型の視点では、世界は新たな顔を見せる。世界は不変のルールによって支配される固定的な存在ではなく、複雑なゼンマイ仕掛けのようにとらえられる。もちろん、その中の仕組みは調査すれば理解できるのだが。「正しい」「間違っている」という絶対的な答えはなく、「これは他のものよりもうまく作用する」という相対的な世界観である。意思決定の基準が倫理から有効性に変わる。世界がどのように動いているかを理解すればするほど、多くのことを達成できる。最善の判断とは、最大の結果をもたらす判断のことだ。人生の目標は、前に進むこと、社会に受け入れられる方法で成功すること、自分に与えられたカードで最後まで全力を尽くすことになる。

オレンジのパラダイムを獲得すると、人間は既存の枠組みや規則を疑う視点を得られるようになります。

達成型の認識は、科学的な研究、イノベーション、起業家精神への水門を開いた。わずか二世紀という、人類全体の歴史から見ればほんの瞬きするほどの間に、達成型組織は私たちに未曾有の繁栄をもたらした。平均寿命は数十年伸び、先進諸国では飢饉や疫病はなくなり、さらには開発途上国でも急激なペースで同じような進歩が実現している。

これはぼくの予想ですけれど、ここ june29.jp を読みにきてくれる物好きな読者のみなさんは、オレンジのパラダイムに共感する人が多いのではないでしょうか。現代のいわゆるグローバル企業と呼ばれるような組織は本書の整理によればオレンジ組織に分類されます。

衝動型が自己中心的で、順応型が自分の属している組織を中心とする視点だとするなら、達成型では世界を中心に物事を考える可能性が生まれたのだ。

歴史的には「イノベーション」「説明責任」「実力主義」などの概念を生んだのがオレンジのパラダイムです。

進化型 (ティール) について

ティール組織を簡潔に説明するのはむずかしいですね… 調査対象となった 12 の組織には以下に示す 3 つの慣行が備わっていたとのことなので、これを見て雰囲気を感じてほしいです。

  • 自主経営 (セルフ・マネジメント)
    • 各自、各チームが自律的に動く。
    • 組織図がないので、トップダウンという概念がそもそも成立し得ない。
  • 全体性 (ホールネス)
    • 属するひとりひとりが本当の意味で「自分」でいられることを目指す。
    • メンバーに肩書きはなく、個性を活かしながらそのときそのときにベストと思えることをやる。
  • 存在目的
    • 「われわれの組織は、なんのために存在するのか?」を中心に据え、日々の意思決定もそれを反映したものとする。
    • 存在目的にそぐわないことはやらない。

「自己組織化」というフレーズでピンとくる人には理解しやすいかな〜。

達成型パラダイムは組織を「機械」にたとえ、多元型パラダイムは「家族」という比喩を使う。

(中略)

進化型組織のリーダーたちは、理想の職場のあり方として、家族とは別の比喩を使う。実は彼らの多くが、自分の組織を「生命体」や「生物」ととらえている。生命は、進化に向けてあらゆる知恵を働かせながら、底知れぬ美しい生態系を維持している。生態系は、全体性、複雑性、そして高い意識に向けて常に進化し続けている。自然は、自己組織化に向かうあらゆる細胞とあらゆる有機体の欲求につき動かされて、常にどこかで変化している。そこには、命令を出したりレバーを引いたりする中央からの指揮も統制もない。

組織をまるでひとつの生命体であるかのようにみなして運営する、という感じですね。

じゃあ、ぼくのパラダイムは?

がんばって自分をなるべく客観的に見るつもりで考えてみて、ぼくの思考のパラダイムは「アンバー : オレンジ : ティール」の比でいうと「1 : 7 : 2」くらいかな、と感じます。ベンチャーやスタートアップでのお仕事を経て、成人して以降の多くの期間をオレンジの傾向が強い組織で過ごしてきたので、思考のパターンもオレンジに強い影響を受けているように思います。

本書を読んでみて「あのときのチームの動きはティールっぽかったな」と思い出すものはいくつもあったので、ティール成分もいくらかありそうです。

ぼくの人生におけるアンバーは、間違いなく「学校」ですね。規則や規律が重視され、まわりのみんなと同じであることが求められていたなあ。たぶんぼくはアンバー組織の慣行があまり肌に合わなくて、だから、働くようになってからの人生の方が楽しくて楽に感じるのでしょう。

本書を読んでの気付き

人間の意識の発達段階と組織モデルの段階をひもづけて考える発想に「なるほど」を得ました。

いちばん「はーん、ははーん」と唸ったのはアンバー組織についての説明を読んだときでした。というのも、ぼくは「職場で私物のスマートフォンを充電するのはアリ?」という質問に「そんなのダメに決まっているでしょ」と即答できる人の気持ちや、「仕事中、喫煙者だけ休憩できてズルい!」と叫ぶ人の気持ちが、本気でわからなかったんですよ。ぜんぜん合理的じゃないじゃん、と思って不思議に感じてしまうばかりだったのですね。

アンバーのパラダイムに従って暮らしている人は「規則や規律こそが組織を守る、だから私たちは規則や規律を守ることがとっても大事なのだ」という価値観を持っているので、その価値観においては「みんなで幸せになるために規則を守る」のは理にかなっているのです。そこは否定されるべきものではないのだな、と納得しました。

オレンジについて語られている文章を読んでいる間は「あー、自分はこういう発想するわ」と思うことが多かったです。それらの考え方について、自分なりに「こういう理由で、これがいい」と選択してきたつもりではありますが、それがすべてではない、その先の考え方もあるんだぞ、ということがよくわかりました。

ティールを実践している組織については、とにかく興味を持ちました。自分がオレンジの発想にとらわれていては、次のステージに向かえないのかもしれないな〜という危機感も覚えました。「組織のパラダイムは、トップに立つもののパラダイムをこえられない」との話もあって、これには少なからずヒヤッとする感覚も覚えました。ぼくが組織やチームを任されるとしたら、ぼくの限界がそこの人たちの天井にもなってしまうのだ、と。

それで、ティールっぽく会社を運営しているように見えた @miyasho88 さんに会いに行ってお話を聞かせてもらったりもしてきました。

ぼくがティールに魅力を感じられた背景

ティールの慣行にある「組織図を持たない」「数値目標を設定しない」なんかは、アンバー組織やオレンジ組織の運営でやっていることの逆をいく面があります。ともすれば「えっ」となりそうです。ぼくも「マジかよ」と感じた箇所はいくつもありました。それでも、魅力を感じられたのは──。

ひとつには、組織図や数値目標の弊害を何度も目の当たりにしてきたからでしょう。それらが役に立つことはじゅうぶんに理解しているつもりでも、同時に、万能ではないことも知っています。それらナシでもうまくいくというなら、試してみたい気持ちはおおいにあります。

「オープン戦略」や「フリーミアム戦略」と言った、それまでの常識の真逆をいくような戦略が大きな成果をあげているのを見てきたから、というのもありそうです。今のぼくが「なんでもかんでも隠すよりオープンにした方がかっこいいし、得じゃん」「無料プランを用意して、とにかく使ってもらうのが大事じゃん」と自然と発想するように、ティールの慣行を当たり前に受け入れる数年後があってもおかしくはありません。

あとはそうですね、アジャイルソフトウェア開発で重視されるような価値観と再会したような気分になったとも言えます。

最近の話題では「The DAO (Decentralized Autonomous Organization)」もぼくの中ではリンクしました。オープンソースソフトウェアを盛んに活用する組織がオープンであろうとするように、これから躍進してくるであろうブロックチェーン技術をバリバリに活用する組織は「非中央集権的」であろうとするはずなんですね。ぼくが参加している Ethereum の技術者コミュニティ Hi-Ether の人たちはしきりに「Decentralize だ!」と言います。なぜなら、非中央集権システムに可能性を感じているからです。こういった価値観を強くもった組織が増えてくると、その運営様式は自然とティールっぽくなっていくんじゃないかな、という未来予想があります。

まとめ

書籍「ティール組織」を楽しく読みました。かなり文量の多い本で内容を咀嚼するにも時間がかかってしまいましたが、ようやく感想文を書けました。

本書は、組織のあり方や個人のあり方について、多くの視点を与えてくれます。ぼくも、世の中の組織や人々を新たな観点をもって観察し直してみると、これまでとは違う見え方になりました。そして、自分が今後どのような価値観とともに生きていきたいのか、どんな文化の組織に身を置いていきたいのか、自分が属する組織をどんなふうにしていきたいのか、考えるきっかけをもらいました。

人間の意識レベルや組織の発達段階に興味のある人にとっては、とても刺激的で示唆に富む書籍だと思います。長いので読むのは大変でしょうが、興味のある方はぜひ!

本書を読んだことをきっかけに考えたこともたくさんあるので、また別記事にして少しずつ書いていきたいと思います。

おもしろかったら、いいジャンしてね。

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